飛行機が出発する前、座席のモニターにモスクが映った。画面の下にアラビア文字が流れ、お祈りが始まった。
マニラから乗ったロイヤルブルネイ航空の機内だった。出発前にこういう時間がある飛行機は、初めてだった。まだ着いていない国のことを、座席に座ったまま一つ知る。モニターには、白いモスクと金色のドームが映っていた。
2026年1月下旬。ブルネイでは三泊して、そのあとクアラルンプールを経由し、ジャカルタへ向かう旅だった。
到着した夜、モスクの前まで
空港からDartの車で市内へ向かい、The Brunei Hotelに荷物を置いた。外へ出て歩くと、オマール・アリ・サイフディン・モスクが見えた。白い壁の向こうに、丸い金色の屋根が載っている。

まだ明るさの残る空の下で眺めていた建物に、やがて灯りがともった。大きな額縁の形をした装飾の前に立つと、その中にモスクが収まった。少し位置を変えて、写真を撮る。空は、建物の灯りがよく見える青になっていた。

この夜、もう一つ知ったことがあった。旅先でいつものように一杯、と思っても、お酒が見つからない。
これまで訪れたイスラム教の国では飲めたこともあったので、同じように考えていた。四日間、飲まずに過ごすのか。到着したばかりなのに、そんなことが気になっていた。
夕食にはAs-Salihahで麺と青菜の料理を食べた。メニューには麺料理が何種類も並んでいる。皿に盛られた麺を前に、ようやく旅先の夕食になった。

ヤシの木の間に、金色のドーム
翌朝、ジャメ・アサール・ハサナル・ボルキア・モスクへ行った。
建物へ続く道にヤシの木が並び、舗装の上には長い影が落ちていた。青空には白い雲が大きく広がっている。日本の一月とは違う景色を、歩きながら見上げた。

モスクはこれまでにも見てきた。それでも、背の高いヤシと金色のドームが一緒に見えるのは新鮮だった。木の間から建物を見て、近づいて、今度は屋根を見上げる。
階段の上には、色のついた細かな模様が広がっていた。白い手すりの曲線を目で追うと、その先で丸い天井につながる。外では大きな建物として見ていたものが、近づくにつれて、模様や柱や窓に分かれていった。

池のそばへ出ると、水の青と、ドームの金色が並んだ。さっき歩いた道の方へ回ってみる。同じ建物でも、ヤシの木越しに見るのと、正面から見るのとで印象が変わる。すぐには立ち去れず、何枚も写真を撮った。

王室の行列を、歩いて見る
午後はロイヤル・レガリアへ向かった。
前日、タクシーの運転手に、ここは行った方がいいと勧められていた。向かいながら、そのときの会話を思い出した。
王室そのものなのか、いまの王なのか、そこまではわからない。それでも話を聞いていると、この国の人は王室が大好きなんだな、と思った。少なくとも、あの運転手の言葉からは、王室が身近に敬われているように感じられた。
道の向こうに、丸い屋根の建物が見えた。

中に入ると、金色の装飾を施した大きな車と、その周囲に並ぶ人形が目に入った。並びに沿って歩くと、儀礼の行列を横から見ているようだった。
ここには王室の儀礼用の品々や、国王の在位記念に関する展示が収められている。街の中で大きなモスクを見てきたあと、今度は王室を囲む儀式の大きさを、目の前の車や傘、人の列から見ることになった。

頭上には黄色い傘がいくつも並び、その下には細かく装飾された道具が続いていた。遠くから全体を見ていたときには気づかなかった模様が、そばへ寄ると見えてくる。歩いては止まり、また少し先へ進んだ。
ガドン・ナイト・マーケットを歩く
夕方、ホテルの無料シャトルでガドン・ナイト・マーケットへ向かった。同じ車に乗り合わせた高橋さんも、日本から来た旅好きの人だった。市場に着いて、そのまま一緒に回ることになった。
屋根の下に店が続いていた。果物を積んだ台もあれば、料理を小分けにして並べた店もある。立ち止まって見ていると、少し先の屋台も気になった。

「もう一周してから決めます?」
高橋さんが言った。
「そうですね。でも、戻ってこられるかな」
「さっきの店、どこでしたっけ」
二人で振り返った。似たような屋根が続いている。
一人なら、その場で何かを買っていたかもしれない。二人だと、あれもよさそうだ、こっちも見てみようと、なかなか決まらない。
「旅先だと、食事の回数が足りないですよね」
「気になったものを全部食べるには、もう一泊ですね」
話しながら、また隣の屋台をのぞいた。

その夜には、灯りのついたジャメ・アサール・ハサナル・ボルキア・モスクも見た。朝は空やヤシの木まで明るく見えていた場所で、今度は塔とドームが暗い空に浮かんでいる。朝に撮った写真と見比べたくなって、またカメラを向けた。

家の下まで、川が来ている
翌朝は、小さな船でカンポン・アイールへ渡った。川の上に立つ家々が近づき、船着き場で降りると、細い木の通路が集落の中へ続いていた。

道の両側に家がある。その下には地面の代わりに水があり、建物を支える柱が何本も伸びていた。屋根の下を通り、家の間から川を見る。遠くからひとまとまりに見えていた水上集落の中を、いまは自分の足で歩いていた。

通路の脇に猫がいた。少し先の柵の前にも、もう一匹。建物や川を撮っていた手を止めて、今度は猫へカメラを向けた。
広く水面が見えるところへ出ると、青や赤の屋根が向こう岸まで続いていた。頭上には電線が渡っている。家の色も形も同じではない。木の通路を歩いているうちに、次の曲がり角の先も見たくなった。

ブルネイ川を、木々の近くへ
夕方、もう一度船に乗った。今度はテングザルとホタルを見に行くツアーだった。
船が木々の近くへ進むと、岸辺には根が幾重にも伸びていた。水の上から、その隙間をのぞく。午前中は家の下の柱を見ていたのに、ここでは木の根が水辺を埋めている。

ガイドのハキムに、ブルネイ川と周りの自然について聞いた。話しているうちに、この川のそばで暮らしてきた人たちのことも知りたくなった。
「この国のことを知ろうと思ったら、川も見ないといけないんですね」
「モスクは、もう見ましたか」
「見ました。博物館も」
「じゃあ、今日はこっちですね」
ハキムが水の先へ顔を向けた。僕も同じ方を見た。
川の話から、彼らのルーツの話になった。この旅では、ブルネイの人から「ここからブルネイがスタートしたんだ」という言葉を聞いた。カンポン・アイールについての話だった。
その言葉を、午前中に歩いた道と重ねる。家と家を結ぶ木の通路。窓や軒先、その下の水。国の始まりの話を聞いていても、思い浮かぶのは、さっきまで歩いていた家並みだった。
枝の間に、テングザルがいた。
「あそこですか」
葉の向こうを見上げて、ハキムに確かめる。赤茶色の体が見え、その下には枝をつかむ手足があった。別の枝にもいる。木々の中で暮らす群れを、船から見ていた。

話はそこで途切れた。目を離すと、もう一度見つけるのに少しかかる。葉と枝の間を探して、カメラを構えた。
日暮れのブルネイ川と、ホタルの光
日が傾き、川の向こうの空に赤い色が広がった。岸辺の木々は暗くなり、その上だけが明るい。細かな波のある水面を入れて、船の先から写真を撮った。

空の色が気になって、何度も同じ方を見た。赤い雲の下に木々があり、その手前に川がある。昼間には枝の間の小さな姿を探していたのに、今度は遮るもののない空を眺めていた。
暗くなってからは、岸辺のホタルを見た。木々の中に、小さな光が見える。さっきまで夕日を見ていた目で、今度は暗い葉の間を探した。
「見えますか」
「見えました。あ、こっちにも」
指で示そうとしてから、手を下ろした。指先を見るより、そのまま木を見ていた方がよかった。

帰りの川では、水上に建つ消防署に灯りがついていた。水上集落でも火災が起きることがある。明るく開いた船の出入口が、水面に向いている。その下で光が細長く揺れていた。

船が進むと、灯りは横へ流れていった。もう一枚撮ろうとカメラを上げる。画面の中で、水面の光がぶれた。
おすすめのレストラン
| 店名 | 特徴 |
|---|---|
| As-Salihah | ミーゴレンやクイティアオなど、麺の種類や具材を選べるメニュー。麺に青菜の一皿を合わせて食事をした。 この食事の会計はBND 8.00。 |
| ガドン・ナイト・マーケット | 調理した料理の屋台と果物の店を見て回れる市場。店ごとの品物を見比べながら、食べたいものを探せる。 |
ブルネイ川のツアー予約
今回利用した「Private Proboscis Monkey and Firefly Tour」はViatorで予約した。
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今回の宿
| 宿名 | 泊数 | 総額 |
|---|---|---|
| The Brunei Hotel | 3泊 | SGD315.90(参考:約38,494円) |
日本円は2026年1月30日の為替レート(1 SGD=121.85606円)による参考換算値です。実際の決済レートとは異なります。
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この旅の続き:ジャカルタ旅行記|旧市街を歩き、夜はサバン通りの屋台へ


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