九月、四駆のキャンピングカーを借りて、アイスランドを一人で回った。七つのキャンプ場に一泊ずつ泊まり、最後だけレイキャビクの宿へ。昼は車を走らせ、夜は自炊して、寝袋に入る。そんな八日間のロードトリップだった。
見たかったものの一つは、オーロラだ。けれど、旅を振り返って写真を開くと、夜空よりずっと多く写っているのは道中の景色だった。草原の向こうへ延びる道路、海沿いの山、川のそばの小さな家。滝や氷河へ向かう途中にも、眺めていたい場所が次々に現れた。
前編は、車を受け取った日から南岸を回り、東のフィヨルドの町に着くまで。走る時間の長い旅だったが、その時間も含めてアイスランドを楽しんでいた。
八日間の旅の地図
観光地、道中の風景、食事、八つの宿泊先。日を選ぶと、その日の地点へ絞れます。
ピンは立ち寄り先と道中の撮影地点です。色の線は主要道路に沿って移動の流れを示した参考線で、実際の走行記録ではありません。4日目は939号線→95号線→エイイルススタジル→93号線の経路を反映しています。火山などの徒歩経路は線を省いています。施設への細かな進入路も省略しています。灰色の破線は空港周辺から市内へのバス移動の目安です。
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車を受け取り、間欠泉からキャンプ場へ
宿泊:スキョール・キャンプ場
空港周辺で受け取ったのは、トヨタ・ハイラックスの四駆キャンピングカー。これから一週間、移動も寝泊まりもこの車でこなす。島を回る出発前には、リングロードを走るぞ、と意気込んでいた。
最初の立ち寄りはゲイシール(Geysir)の地熱地帯だった。立ち上る湯気の先で、水が空へ噴き上がる。地面の一点から、あれだけの勢いで水が出てくる。その様子を見ていると、到着したばかりなのに、もうアイスランドらしい場所へ来た気がした。

最初の宿泊地は、スキョール・キャンプ場(Skjól Camping)。この日は敷地内でビールを飲んだ。室内には犬がいて、その姿にすっかり癒された。景色ばかり撮る旅になると思っていたが、初日の記憶には、この犬もちゃんと残っている。


キャンピングカーに戻れば、そのまま今夜の寝床になる。車内の寝心地はよかった。九月とはいえ夜は寒いが、寝袋を二枚重ねれば問題なく眠れる。
荷物を毎晩すべて持ち出さなくていいのも、車で寝る旅の楽なところだ。これから毎日違う町まで走り、キャンプ場に車を停める。朝になったら、また次の景色へ向かう。

草原の道を南へ。滝、氷河、黒い海岸
宿泊:ヴィーク・キャンプ場
朝、空に虹が出ていた。良い一日になりそうだと思いながら、グトルフォス(Gullfoss)へ向かった。
大きく段をなして落ちる川の向こうに、低い太陽が見える。水しぶきの上にも虹がかかっていた。滝だけを切り取るより、空と周囲の土地まで一緒に眺めていたい景色だった。


南へ向かう道は、草原の間をゆるく曲がっていた。建物の少ない土地に、道路だけが奥へと続いていく。遠くの山も、道路脇の草地も、同じ視界に入る。
この先には滝や氷河が待っている。それでも、途中の風景を先へ急いで通り過ぎるのは惜しかった。目的地に着く前から、もう十分に眺めるものがある。

セリャラントスフォス(Seljalandsfoss)では、滝の裏側へ回った。目の前を落ちていく水の向こうに、平らな土地と空が見える。正面からは一本の滝として見えていたものが、裏へ入ると視界の大きな部分を占めていた。
ぐるりと歩いて離れると、今度は緑の斜面に白い筋が落ちる姿に戻る。同じ滝を、近づいたり、裏へ回ったり、振り返ったりしながら見た。


続いてスコゥガフォス(Skógafoss)へ。こちらは幅のある水が、崖からまとまって落ちている。滝の下に立つ人が小さく見えた。
上へ登り、川沿いを歩く。目の前の大きな滝を見終えても、その先にまた滝があった。草の斜面の間を水が流れ、岩の段差で白く砕ける。少し進むたびに川の形が変わるので、上流でも足が止まった。


道を進め、ソゥルヘイマヨークトル(Sólheimajökull)へ向かう。手前の地面は暗く、山の間から白い氷河が見えてきた。近づくにつれ、表面に刻まれた溝や、黒い筋が分かるようになる。

水辺まで来ると、氷の縁が複雑な形をしていた。遠くでは白く見えていた氷河にも、青や灰色、黒が混ざっている。手のひらに載る小さな氷を見ても、その向こうにある氷河の大きさは、うまく実感できなかった。


さらに南岸を走って、ディルホゥラエイ(Dyrhólaey)周辺の海へ出た。黒い浜に白い波が重なり、陸側には緑の斜面が続いている。
一日のうちに、滝、氷河、海岸と景色が変わっていく。どれも同じ曇り空の下にあるのに、地面の色や形がずいぶん違った。

レイニスフィヤラ(Reynisfjara)では、柱のような岩が並ぶ崖を眺めた。溶岩が冷える過程で生まれた柱状の割れ目が、あれだけ規則正しく続いている。
沖に立つレイニスドランガル(Reynisdrangar)には、船を岸へ引き寄せようとしていたトロールが、朝日を浴びて石になったという伝承も残る。荒々しい地形に、そういう物語が重ねられてきたことが面白かった。

この日の宿は、ヴィーク(Vík)のキャンプ場だった。共同キッチンに入って、夕飯を作る。
「今日はどこから来たの?」
「朝はグトルフォス。それから滝を回って、海岸まで」
料理をしながら話していると、今日走った道や、次に向かう町の話になる。ほかのキャンパーもそれぞれに旅の途中だ。道中の情報を交換したり、たわいもない話をしたりする時間が楽しかった。
昼間は一人で車を走らせていても、夜のキッチンでは誰かと話せる。食事を作り、食べ終えたら車に戻る。その流れが、少しずつ自分の旅の形になってきた。


虹の町を出て、氷河と湖のある東へ
宿泊:ホプン・キャンプ場
翌朝のヴィークにも、大きな虹がかかっていた。赤い屋根の教会の向こうへ、弧が延びている。昨日の朝も虹を見たが、町の建物が入ると、また違う景色になる。
この日は東のホプン(Höfn)まで向かう。キャンプ場を出て、また車を走らせた。

途中、川の向こうの斜面に、小さな家と細い滝が見えた。建物のすぐ後ろから崖が立ち上がり、ずっと上のほうから水が落ちている。
有名な滝に着いた時だけ、良い景色があるわけではなかった。道沿いの家も、川も、後ろの山も一緒に見える。車を走らせていると、そういう風景に何度も出会う。

路面が濡れたまっすぐな道を進む。遠くの空は白く、道路の両側は低い草地だった。風景を遮るものが少ないので、行く先の空模様まで見渡せる。
少し先では、苔に覆われた凹凸のある土地が広がっていた。緑色でも、牧草地のような平らな面ではない。昨日の海岸とはまた違う地面が、車窓の外を埋めていった。


スカフタフェットル(Skaftafell)周辺では車を降り、スヴァルティフォスへ歩いた。道の途中にも、木々の間を落ちる滝が見えた。黄色く色づき始めた葉と、白い流れを眺めながら先へ進む。さっきまでの広い車窓から、今度は歩く速さで見る景色になった。

スヴァルティフォス(Svartifoss)へ着いた。滝の周りを取り囲むのは、黒い柱状の岩だ。昨日の海岸にも似た岩があったが、ここでは滝を囲む壁になっている。
この柱は、溶岩が冷えて縮む時にできたものだという。自然にできた割れ目が、こんなに揃った形になる。滝を見に来たのに、その背後の岩にも目が向いた。

近くの氷河湖にも立ち寄った。水の向こうには、青白い氷の壁が続いている。表面は滑らかではなく、大きな溝が何本も入り、ところどころ黒く汚れていた。
さっきまで緑の中を歩いていたのに、ここでは視界に占める氷の割合が大きくなる。地図ではすぐ近くにある場所でも、立って眺める景色はまるで違った。

さらに東へ向かう途中、ホフ(Hof)の草屋根の教会へ立ち寄った。小さな建物の屋根が、周りの草地と同じ緑色をしている。白い縁取りと十字架が、その中ではっきり見えた。
ホフスキルキャ(Hofskirkja)は、木の骨組みに石を積んだ側壁を組み合わせ、屋根を芝土で覆った教会だ。この場所の教会は14世紀の記録にも登場するが、今の建物が造られたのは1883〜1885年。1950年代にいったん解体して建て直すなど、修復を重ねて受け継がれてきた。周囲の草地に見える丸い盛り上がりも、昔ながらの墓地の形なのだという。
草に包まれた姿だけを見ると、ずっと同じ形でここにあったように思える。けれど、人が手を入れ、残してきた建物だった。滝や氷河とは違う時間の積み重なりを感じながら、小さな教会の周りを眺めた。

ヨークルスアゥルロゥン(Jökulsárlón)の氷河湖では、青みのある氷が水に浮かんでいた。向こう岸には低い雲がかかり、その下にも氷が続く。ひとつずつ違う形をした氷を、岸から眺めた。

すぐ近くのダイヤモンドビーチでは、黒い浜に氷が打ち上がっていた。透明なものもあれば、白く濁ったものもある。大きさも形もばらばらで、歩いている人のそばに、かなり大きな塊が残っていた。
この氷は、海で凍ってできたものではない。ヴァトナヨークトル氷河から伸びるブレイザメルクルヨークトル(Breiðamerkurjökull)の先端が崩れ、まず氷河湖に浮かぶ。そこから川を通って海へ流れ出た氷の一部が、波や潮の動きによって浜へ打ち戻される。さっき湖で眺めていた氷と、足元の氷は、そうしてつながっていた。
波に洗われ、融けながら形を変えた氷は、黒い砂の上ではいっそう明るく見える。ダイヤモンドビーチという名にも納得した。湖では遠くから見ていたものを、今度はすぐそばで眺められる。氷河から海までの道のりを思うと、この小さな塊にも目が離せなくなった。

ホプンに着いて、夕食は港近くのパックフース(Pakkhús)へ。席に着き、ビールを飲む。長距離を運転した後の一杯は、ただただよかった。
この日はラングスティーヌのスープと、馬のヒレ肉の料理を注文した。スープにはパンが添えられ、肉の皿には野菜やソースが並ぶ。共同キッチンでの自炊が続く旅の途中で、こうして食卓につく夜もあった。



夜はホプン・キャンプ場(Camping Höfn)へ。今日の移動は、ヴィークからホプンまでの長い一日だった。滝や氷河の写真と一緒に、まっすぐな道、川沿いの家、苔の広がる土地の写真も増えている。
翌朝は、ここから東の海岸へ進む。

海岸をたどり、凹凸の多い峠を越える
宿泊:セイジスフィヨルズル・キャンプ場
ホプンを出る朝、町の入口の三叉路から、遠くに氷河が三つ見えた。道路標識の向こうに平らな土地が続き、その奥に白い氷と山がある。
昨日は氷河の近くまで歩いたが、今朝は道路から眺めている。車で移動する旅では、こうした何でもない分かれ道まで、印象に残る場所になる。


まずはヴェストラホルン(Vestrahorn)周辺へ寄り道した。尖った稜線の前には浅い水面が広がり、山の輪郭がそこにも映っている。空と山と水面を一緒に見渡すと、その広さにしばらく足が止まった。山を見上げた後、今度は水面に映る形を眺めた。

この辺りでは、木造の村のような場所も歩いた。古びた色の柱や板が並び、通路の隙間から外の草地が見える。大きな山を前にした眺めから、木の建物の間へ入ると、目に入るものの大きさが変わった。
海側へ視線を向けると、また空と水辺が広がる。山の姿も、建物の間の景色も眺めてから、再び東へ向かった。


海沿いの道では、湾の向こうに山が見え、その手前に草地や小さな家があった。遠くの雪を載せた山から、道のそばの建物まで見渡せる。
同じ海岸でも、少し走ると山との距離や湾の形が変わる。車を進めるにつれ、景色が少しずつ組み替わっていくのを見ていた。


フィヨルドでは、アザラシが見えた。水面の岩のそばに、黒っぽい体がある。大きな景色をずっと眺めてきた目が、今度はその小さな姿に向いた。
これは眼福だ。次の町へ向かう途中に、こういう出会いがあるのはうれしい。

海沿いから939号線へ入り、内陸へ進んだ。その後は95号線を北上し、エイイルススタジル(Egilsstaðir)を経てセイジスフィヨルズルへ向かうルートだ。
この内陸へ入る道中で、想定外の悪路に出合った。峠を越えるような道で、凹凸が非常に多い。四駆でなければ無理だと思うほどだった。広い景色を楽しんでいたはずが、今度は目の前の路面に注意を向けながら進むことになる。特に荒れていたのは、939号線から95号線に入った後だったと思う。あの走りにくさは、はっきり覚えている。

山の間から、来た方向の低い土地を見渡す。海岸にいた時より周囲の斜面が近く、緑の間を水が流れていた。車を停めた場所の向こうにも、細い滝がいくつも落ちている。
走るのは大変でも、目に入るものはやはりよかった。海辺から山の中へ移ると、同じ一日の景色がまた変わる。


エイイルススタジルを通り、93号線でセイジスフィヨルズル(Seyðisfjörður)へ向かった。町へ下っていく途中にも滝があり、また足が止まる。山の斜面を細く落ちる水もあれば、岩を越えて勢いよく流れる水もある。毎日これだけ滝を見ているのに、そのたびに車を停めて眺めたくなった。

町に入ると、教会へ続く道が虹色に塗られていた。両側には低い建物が並び、その背後まで山が迫っている。海岸と峠を走ってきた後に、人の暮らす町へ着いた。

車をキャンプ場に置いた後、町のバーで地元の蒸留酒、ブレンニヴィン(Brennivín)を飲んだ。
「これ、アイスランドのお酒なんですね。何で香りをつけているんですか?」
カウンター越しに尋ねると、店の人が教えてくれた。
「キャラウェイというスパイスだよ。北欧で飲まれているアクアヴィットの仲間なんだ」
もう少し知りたくなって、続けて尋ねた。
「昔から飲まれているんですか?」
「今につながるブレンニヴィンが造られたのは1935年。禁酒が一部解かれて、国の酒類会社が造り始めたんだよ」
「国が造ったお酒なんだ。この黒いラベルも、その頃から?」
「そう。派手なラベルにせず、あえて地味にして飲みたい気持ちを抑えようとしたらしい。でも、結局よく飲まれるお酒になったんだ」
見た目で飲む気をなくさせようとしたお酒が、旅先で注文したくなる一杯になっている。その成り行きが面白かった。僕にはあまり癖を感じない酒だったが、強い酒なのでゆっくり飲む。
夜になって、もう一度教会の前を通った。昼間は人のいた虹色の道が、照明の下に続いている。


ただ、オーロラにはまだ会えていない。そろそろ夜も晴れてくれないか。景色に十分満足しながらも、空にはもう少し期待していた。
旅はここで折り返し。翌朝は東部の山を越え、北のアークレイリへ向かう。
泊まった宿
前半は四カ所のキャンプ場に一泊ずつ。どのキャンプ場でも電源とシャワーを利用した。車内は寝心地がよく、九月の寒い夜も寝袋を二枚重ねれば眠れた。
| 宿名 | 泊数 | 料金・施設案内 |
|---|---|---|
| スキョール・キャンプ場 | 1泊 | 2,833 ISK約3,407円現在の金額はこちらを参照してください。 |
| ヴィーク・キャンプ場 | 1泊 | 4,100 ISK約4,931円現在の金額はこちらを参照してください。 |
| ホプン・キャンプ場 | 1泊 | 2,800 ISK約3,368円現在の金額はこちらを参照してください。 |
| セイジスフィヨルズル・キャンプ場 | 1泊 | 4,150 ISK約4,991円現在の金額はこちらを参照してください。 |
キャンピングカー
トヨタ・ハイラックスの四駆キャンパーを利用。レンタカーと保険の予約時支払額は370,300 ISK(約445,367円)。燃料代などは別。
円換算は2025年9月初めのECB参考レート(1 EUR=172.47円、1 EUR=143.4 ISK)による目安。カードの実際の請求額とは異なる。



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