アイスランドを一人で回る、キャンピングカーの旅。南岸の滝と氷河を巡った前半を終え、東部のセイジスフィヨルズル(Seyðisfjörður)から北へ向かう。
車で寝て、共同キッチンで食事を作り、翌朝また走り出す。その暮らしにも慣れてきた頃、車のエンジンが止まった。予定していた場所を諦める日もあれば、景色に誘われて回り道をする日もある。後半は、移動中に目にしたものが、ますます強く記憶に残る旅になった。
八日間の旅の地図
観光地、道中の風景、食事、八つの宿泊先。日を選ぶと、その日の地点へ絞れます。
ピンは立ち寄り先と道中の撮影地点です。色の線は主要道路に沿って移動の流れを示した参考線で、実際の走行記録ではありません。4日目は939号線→95号線→エイイルススタジル→93号線の経路を反映しています。火山などの徒歩経路は線を省いています。施設への細かな進入路も省略しています。灰色の破線は空港周辺から市内へのバス移動の目安です。
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高原を抜け、硫黄の香る北部へ
宿泊:ハムラル・キャンプ場
セイジスフィヨルズルを出て山へ上がると、町の建物が見えなくなり、水のたまった草地と山の斜面が広がった。町に着くまでにあれだけ景色を見てきたのに、翌朝にもまた、しばらく眺めたい場所がある。

西へ走っていくと、黄色や赤茶色の混じった草地の中に、道が一本延びていた。遠くの山まで、視界を遮るものがほとんどない。
車を降りて見ると、道の上に立っている時と、少し横を向いた時で景色が違う。道路の続く先を見たり、草原の奥を見たりする。観光地に着く前から、何枚も写真を撮っていた。


クヴェーリル(Hverir)の地熱地帯へ来ると、景色の色が変わった。草地の緑が減り、黄色っぽい地面や灰色の泥が現れる。あちこちから湯気が上がり、硫黄の匂いがした。
湯気の向こうに人が歩いている。足元の地面から煙のようなものが出ている光景は、写真で見るよりも、ずっと身近なところで起きていた。


道路へ戻ってからも、白い蒸気が立ち上る景色が続いた。硫黄の匂いに触れると、つい温泉を思い浮かべてしまう。外を歩いた後に、温かい湯に肩まで浸かれたら気持ちいいだろう。そう思いながら、湯気の上がる土地を走っていった。

グリョゥタギャゥ(Grjótagjá)では、岩の隙間に青い水面が見えた。入口の明るさに対して、奥は暗い。目が慣れるにつれて、水の色と、周りの岩の形が分かってくる。
透明な水にも、光の赤い成分を吸収しやすい性質があり、光が水の中を長く進むほど青みが現れるという。この洞窟の色にも、その性質が関わっているのだろう。差し込む光や水深によっても見え方は変わるはずで、温泉の成分だけで青いのだと決めつけることはできない。
さっきまで見ていた地熱地帯は、泥が動き、蒸気が噴き出す場所だった。ここでは暗い岩の下に、澄んだ水が静かにたまっている。同じ地熱が生んだ景色なのに、こんなにも表情が違う。岩の奥にこの色が隠れていたことが不思議で、しばらく覗き込んでいた。

外へ出ると、地面に大きな割れ目が続いていた。岩の縁は不揃いで、草の生えた地表が途中から切れている。洞窟の中で見た水は、この地面の下にある。
ミーヴァトン周辺は、北米プレートとユーラシアプレートが離れていく北部の火山帯に位置する。地面が引き伸ばされる力に、地下へマグマが入り込む動きも重なり、地域の亀裂や断層が発達してきた。グリョゥタギャゥの水温も、1975〜1984年の火山活動期に上がり、それまでのようには入浴できなくなったという。
足元の岩は硬く、今は何も動いていないように見える。それでも、この割れ目も洞窟の湯も、地面の下で起きていることにつながっている。地図で見れば線でしかないプレートの境界が、ここでは歩いて見渡せる大きさの地形になっていた。自分が立っている土地も、長い時間をかけて動き続けているのだと感じた。

ミーヴァトン湖(Mývatn)の周辺からさらに西へ進むと、水辺と草地が広がった。硫黄の匂いがしていた場所から、再び緑のある景色へ戻ってくる。
途中の川沿いには小さな教会が見えた。大きな山や滝ほど目立つものではないが、広い土地の中に建物が一つあると、そこに暮らす人のことが少し気になる。


ゴーザフォス(Goðafoss)では、川幅いっぱいに広がるような滝を見た。水がいくつかの筋に分かれ、弧を描く岩場から落ちていく。
この滝には、キリスト教への改宗を決めた人物が、それまで信仰していた北欧の神々の像を投じたという伝承がある。「神々の滝」という名にもつながる話だ。ここまで見てきた滝にも、それぞれ土地の人が語ってきた話があるのだと思った。

この日の目的地はアークレイリ(Akureyri)。道沿いには形の整った山が見え、町へ近づくと、車や建物が増えていく。
一日の大半を広い土地の中で過ごしてから町へ入ると、教会の階段や店の並ぶ通りが、いつもより目に入った。


赤信号を見上げると、光がハートの形をしていた。かわいい。大きな景色を見続けた一日の終わりに、こんな小さなものが印象に残るのも面白い。

夜はハムラル・キャンプ場(Camping Hamrar)へ。食事の時間に共同スペースへ行く、という過ごし方にも慣れてきた。
旅先の会話は、立派な話題がなくても続く。どこを走ってきたか、今日は何が見えたか。料理の合間にそんな話をして、食べ終わったら車に戻る。一人で回っていても、毎日まったく誰とも話さずに終わるわけではなかった。

エンジンが止まった朝。修理を終えて西へ
宿泊:ブーザルダールル・キャンプ場
朝、山を見て驚いた。昨日より白い部分が増え、一晩で一気に冬の装いが進んでいる。今日は西のブーザルダールル(Búðardalur)へ向かうつもりだった。
ところが、車のエンジンが止まった。

移動も寝泊まりも、この車に頼っている。走れなくなると、今日の予定そのものが止まってしまう。車はレッカーで修理工場まで運ばれることになった。
早く直ってくれ、としか思えなかった。修理屋に聞いても原因は分からず、修理には二時間ほどかかった。詳しい原因がはっきりしないままでも、また走れるようになったのは助かった。

出発が遅れたので、いくつかの目的地は諦めた。予定を組み直し、西へ向かう。
それでも道中の景色はよかった。山に挟まれた谷に、道が細く延びている。斜面の一部に光が当たり、その下には草地が続いていた。行けなくなった場所のことを考えていたはずなのに、目の前の景色も見ていたい。車が動くようになって、またこうして道を進めている。

さらに走ると、青い水面を見下ろす場所へ出た。低い建物の赤い屋根と、海の向こうの土地が見える。朝は故障で落ち着かなかったが、途中の風景まで悪くなったわけではなかった。
行きたかった場所を諦めたのは残念だった。それでも、谷を抜け、この水辺まで走ってくる間に、何度も景色に見入った。予定どおりには進まなかった一日にも、覚えておきたい眺めがいくつもあった。

ブーザルダールルのキャンプ場へ着いた。いつものように車を停めて、一晩を過ごす場所を確保する。朝の段階では今日どこまで進めるか分からなかったので、目的地まで来られたことに、まずほっとした。

夕方、空がオレンジ色に変わった。アイスランドに来て、ようやく夕陽を見られたと思った。
今日はオーロラにも期待できるかもしれない。朝は車のことで頭がいっぱいだったのに、夜にはまた空の様子を気にしている。

景色に誘われて、スナイフェルスネス半島を回り道
宿泊:オラフスヴィーク・キャンプ場
朝、ブーザルダールルを出て、スナイフェルスネス半島(Snæfellsnes)へ向かった。道のそばには、低い草地が遠くまで続いている。雲の間には青空も見えていた。

車を停めた場所から辺りを眺めると、小さな建物と電柱が見えた。広い土地の中では、そんな身近なものまで風景の一部になる。キャンピングカーを入れて撮ると、この車でここまで来たことも写真に残る。


川の流れる場所にも寄り道した。岩の間を水が流れ、その周囲には秋らしい色が混じっている。
昨日は故障のせいで、予定していた場所をいくつか減らした。今日は景色を見て、立ち寄る場所が増えていく。車があれば、気になった場所へ自分で向かえる。その自由を楽しんでいた。

分かれ道の標識を見て、その先の風景を眺める。山の下には、小さな白い教会があった。遠くから見ると、建物の大きさよりも、背後の斜面の広さがよく分かる。


青空の下に水辺が広がる場所もあれば、雲の多い山に囲まれた水辺もある。どちらも、ただ車で通り過ぎるには惜しかった。
この日は当初の予定から回り道をした。何か特別な理由があったというより、見えてきた景色がよかったから、そちらへ進みたくなった。


キルキュフェットル(Kirkjufell)へ近づく途中、牧草地に馬がいた。後ろには形のはっきりした山が見えている。馬はこちらの予定など気にせず、草を食べていた。

キルキュフェットルスフォス(Kirkjufellsfoss)の滝のそばへ来ると、向こうにキルキュフェットルが見えた。手前の水と、奥の山を一緒に眺める。山頂へ登らなくても、ここから見える山の形だけで十分に面白い。
キルキュフェットルは「教会の山」という意味で、その独特の形に由来する名前だという。そして、手前の滝にも伝承がある。近くに暮らす女性の息子二人が、釣りをしていて滝で溺れた。母親は、二度とこの川で人が溺れないように、けれど魚も二度と獲れないように、魔法をかけたという話だ。
美しい山と滝の組み合わせに、そんな悲しい物語が残っている。写真では穏やかに見える流れも、そばで眺めると水が絶えず落ち続けている。山へ目を上げたり、滝へ戻したりしながら、その場にしばらく立っていた。

半島の南側へ向かう途中にも、広く見渡せる場所があった。草地と水面、その向こうに山。雲が低くかかった部分と、青空の見える部分が、同じ景色の中にある。

ブージル(Búðir)では、黒い教会を見た。小さな建物の黒い壁に、白い扉と窓の縁がはっきり浮かぶ。周りには石垣と草地があるだけで、教会の形がよく見えた。
この旅では、毎日のように滝を見ているが、教会にも何度も足を止めている。色や形、周りにあるものが違うので、町や土地ごとの姿として覚えていた。

ヘルナル(Hellnar)の海岸では、岩の間に穴が開き、その向こうに海が見えた。崖の上を歩くと、足元近くに大きな割れ目がある。地面の凹凸が、そのまま海岸の形になっているようだった。

海の向こうには虹が出ていた。ここまで何度も虹を見たが、黒い岩の海岸と一緒に見えると、また写真を撮りたくなる。
空の一部は明るく、別の方向には雲が残る。車で走っている間も、歩いている間も、空の様子は一つに決まらない。

車へ戻った場所でも、山の前に虹が見えた。今日の移動の途中に、こういう景色が入ってくる。予定外に遠回りをしていても、早く目的地に着けばよかったとは思わなかった。

ヘルナルを離れて西へ進んでからも、山と虹の景色が続いた。
この辺りでスネッフェルス山(Snæfellsjökull)を眺めると、ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』を思い出す。物語では、この山が地底への入口になる。あの火口を下れば、地中海まで出られるのか。そんな小説の連想をしながら、半島を回った。

夕方には、オラフスヴィーク(Ólafsvík)へ。教会の形が、これまで見たものとまた違う。鋭い三角形が組み合わさった建物の前に、虹色の道が続いていた。
町の奥には滝もある。車を停めて歩き、今日も滝を眺めて一日を終えた。ブーザルダールルから真っすぐ宿へ向かうだけなら出会わなかった景色が、ずいぶん増えた日だった。


最後の朝のドライブと、自分の足で歩く火山
宿泊:101ゲストハウス
最後の朝、オラフスヴィークを出た。山の上のほうに朝日が当たり、低い場所にはまだ影が残っている。朝の光があるうちに眺めたいと思う景色が、道中にいくつもあった。


車を停めて、低い太陽を眺めた。昨日も通った場所だが、朝は光の向きが違う。車と山を一緒に写真に収める。
一週間前は、初めて乗るキャンピングカーだった。今は、寝る場所も荷物の置き場所もある、毎日使う車になっている。その車を返す日が来た。

道中では、オルケルダ(Ölkelda)の鉱泉にも立ち寄った。草地の中に、蛇口が一本立っている。この土地では天然の炭酸を含む水が湧くという。
昨日まで見てきた大きな滝や海岸に比べると、とても小さな立ち寄りだ。それでも、道の途中にこういう場所があるのが面白い。

最後の目的地は、ファグラダルスフィヤル(Fagradalsfjall)。ここはツアーに参加せず、自分で歩いた。
黒い溶岩が広がる景色の中を、奥まで進んだ。地面には細かな凹凸があり、大きく盛り上がって固まった部分も見える。ここまで車から眺める時間の長い旅だったが、最後は自分の足で、その土地の中へ入っていった。

往復で二時間ちょっと。噴火はしていなかったが、歩きながら溶岩の形や、向こうの山を眺めた。
八日間、滝、氷河、海岸、草原を見てきた。その最後に、また違う地面の上を歩いている。車に戻った時、これでロードトリップは終わりなのだと思った。

空港周辺で車を返し、バスでレイキャビク(Reykjavík)へ向かった。ここからは自分でハンドルを握らなくていい。
街に着くと、色のついた建物が並び、人が歩いている。草原や海岸を走る毎日から、最後だけ街で過ごす夜へ移った。

ハットルグリムス教会(Hallgrímskirkja)の前まで歩く。塔へ向かって高くなる建物の形を、下から見上げた。今回の旅では各地の小さな教会にも立ち寄ったが、ここでは街の中に大きくそびえている。

食事はスヴァルタ・カフィズ(Svarta kaffið)で、パンを器にしたスープとビール。丸いパンの上を切り取った蓋を外して食べる。
もうこの後に運転する予定はない。窓際の席でビールを飲みながら、今週も一週間、お疲れさまでしたと思った。

最後の宿は、101ゲストハウス(101 Guesthouse Hotel)。七晩続いた車中泊を終え、この日は街の部屋に泊まった。
長いようで短い八日間だった。オーロラは見られなかったし、火山の噴火も見ていない。それでも、道を走りながら眺めた景色や、途中で気になって寄り道した場所を思い返すと、十分に心が満たされていた。
いつかまた、もう一周したい。
おすすめのレストラン
| 店名 | 特徴 | お会計 |
|---|---|---|
| パックフースホプン | 港近くで食事のできるレストラン。ラングスティーヌのスープや馬のヒレ肉料理がある。僕はその二品とビールを注文した。 | 11,850 ISK約14,252円 |
| スヴァルタ・カフィズレイキャビク | パンをくり抜いた器でスープを食べる店。街歩きの途中に立ち寄り、スープとビールを楽しんだ。 | 4,100 ISK約4,931円 |
泊まった宿
後半は三カ所のキャンプ場に一泊ずつ、最後に101ゲストハウスへ一泊。キャンプ場ではすべて電源とシャワーを利用した。
| 宿名 | 泊数 | 料金・施設案内 |
|---|---|---|
| ハムラル・キャンプ場 | 1泊 | 4,500 ISK約5,412円現在の金額はこちらを参照してください。 |
| ブーザルダールル・キャンプ場 | 1泊 | 3,400 ISK約4,089円現在の金額はこちらを参照してください。 |
| オラフスヴィーク・キャンプ場 | 1泊 | 3,000 ISK約3,608円現在の金額はこちらを参照してください。 |
| 101ゲストハウスBooking.comで空室・料金を見る(広告) | 1泊 | €116.64約20,117円/予約総額。シングル、共用バスルーム、食事なし。 |
キャンピングカー
トヨタ・ハイラックスの四駆キャンパーを利用。レンタカーと保険の予約時支払額は370,300 ISK(約445,367円)。燃料代などは別。
円換算は2025年9月初めのECB参考レート(1 EUR=172.47円、1 EUR=143.4 ISK)による目安。カードの実際の請求額とは異なる。


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