『呪術廻戦』がきっかけで、僕は北上に宿を取った。
九月初め、京都から飛行機でいわて花巻空港へ向かい、岩手の県南で二泊した。
水沢で焼肉を食べ、一関では厳美渓を歩き、達谷窟毘沙門堂へ。北上を拠点にしたこの旅は、後に秋田・岩手・宮城を車で巡った旅とは、別の訪問だ。
今回歩いた場所
花巻から北上、水沢へ:岩手の旅の始まり
空港からバスに乗り、花巻空港駅へ。駅のホームに立ち、鉄道で県南へ向かった。車窓には田んぼが広がり、その向こうに低い山や家々が見える。
北上に宿を取り、水沢では龍園へ。ここの焼肉は、本当に美味しかった。厚く切った肉が並ぶ皿を撮っていたけれど、写真を見返すときも、まず思い出すのは食べたときの満足感だ。牛タン、カルビ、ハラミ、ホルモン、冷麺と、いろいろなものを注文した。
龍園は、予約がなかなか取れない店でもある。水沢で焼肉を食べたいなら、当日の思いつきで探すより、旅の日程と一緒に予約を相談しておきたい。今回の食事の中でも、しっかりおすすめしたい一軒だ。
好きな作品が、宿を取る場所を決めるきっかけになる。その先で実際に過ごす時間には、電車の窓から見た田んぼや、食卓に並んだ肉も加わっていった。
厳美渓とかっこう団子:渓谷散策と空飛ぶ団子
翌日は車で県南を巡った。一関の丑舎格之進で昼食をとり、厳美渓へ。川岸から見ると、岩の間に水が集まり、少し先では広い水面になる。橋の上と岸辺とで、川の形が違って見えた。
厳美渓は、栗駒山から流れる磐井川が長い時間をかけて岩を削り、つくった渓谷だ。岩の形も、水の色も、眺める場所で変わる。ここでは、景色を見る間に団子を食べる時間が入った。
食べたのは、厳美渓名物のかっこう団子。明治時代から続く郭公屋の団子で、箱には三本が並ぶ。名前の由来は、創業者が鳥のカッコウの鳴きまねを得意としていたからだと、店を取材した番組で紹介されている。土地の名だけでなく、一人の人の特技が名物の名前に残っているのが面白い。
もう一つの特徴が、渓谷を渡す籠だ。対岸の店と結ぶロープがあり、籠に代金を入れて木槌で合図をすると、団子とお茶が送られてくる仕組みになっている。岩手県の観光案内では、お茶をこぼさずに届けるのも長年の経験によるものと紹介している。「空飛ぶだんご」という呼び名の奥に、ちゃんと人の手加減がある。
景色をただ眺めるなら、川の向こうは向こうのままだ。けれど、団子を届けるための一本のロープがあることで、対岸の店までを含めた風景になる。大がかりな設備ではなく、川と人のやり取りが一緒に名物になっているところに、この場所らしさを感じる。
団子のあとは、また川へ目を向けた。写真には、箱の中の三本と、岩場を流れる水、吊り橋が残っている。渓谷と団子は別々の記憶にならず、同じ場所で過ごした時間としてつながっている。
達谷窟毘沙門堂:岩壁の下に建つお堂を訪ねる
厳美渓から、平泉の達谷窟毘沙門堂へ向かった。読み方は「たっこくのいわやびしゃもんどう」。鳥居の先に、岩壁の下へ差し込まれるように朱色の堂が立つ。屋根のすぐ上まで岩が迫り、建物と地形を切り離して眺めることができない。
寺に伝わる縁起では、坂上田村麻呂が801年の戦勝を毘沙門天の加護によるものとして、堂を建てたという。清水の舞台を模し、百八体の毘沙門天を祀ったとも伝わる。京都から岩手へ来た今回の旅で、由緒の中にまた京都の名が現れる。
ただし、縁起の物語と、年代を確かめられる記録は同じではない。寺の説明によれば、達谷窟についての最古の記録は『吾妻鏡』の1189年の条だ。悪路王たちを討ったという話も、当時の東北の人たちを一括りに説明する史実としてではなく、この場所に伝わってきた物語として受け止めたい。
今の堂も、創建時からそのまま残った建物ではない。1615年には伊達政宗が建て直し、その堂も1946年の火災で失われた。現在の堂は1961年の再建で、寺では創建以来五代目と数えている。岩が動かずにそこにあるように見える一方で、木の堂は失われ、そのたびにつくられてきた。
毘沙門堂なのに、手前に鳥居がある。別当の達谷西光寺は、今も神仏への信仰が重なる霊場として案内している。鳥居は神社、堂は寺と単純に分けて見ていたら、この境内のあり方を取りこぼしてしまう。
厳美渓では、水が岩を削る形を眺めていた。ここでは、岩の下に建物を置き、祈りを続けてきた人の時間を考える。同じ日に見た二つの岩の景色でも、朱色の柱が加わるだけで、目を向けるものがずいぶん違う。
北上:夕食を楽しみ、帰りの新幹線へ
北上へ戻り、夜は食事をした。青い瓶の白ビール、小さな器に盛られた料理、椀や皿。写真には、食卓に一品ずつ出てきたものが残っている。
皿の色や形も、一品ごとに違っている。景色や建物を見て回った昼のあとには、席に着いて、料理を食べる時間があった。
翌日は北上駅から新幹線に乗った。ホームに入ってくる緑色の車両と、窓の外の田んぼを撮っている。『呪術廻戦』から始まった北上の滞在に、県南の川と岩壁、いくつもの食事が重なった二泊だった。
今回の宿泊
| 宿 | 泊数 | 宿泊額・条件 |
|---|---|---|
| 東横INN北上駅新幹線口 | 2泊 | 21,160円(宿泊料20,160円+延長料金1,000円)。 |
おすすめのレストラン
今回訪れた飲食店・バーから、選ぶときのポイントをまとめた。
| 店 | おすすめポイント | 会計金額 |
|---|---|---|
| 龍園(水沢) | 今回、本当に美味しかった焼肉店。牛タン、カルビ、ハラミなどを味わい、冷麺まで組み合わせられる。予約がなかなか取れないので、水沢での食事を計画する段階で相談しておきたい。 | 41,450円 |
| 丑舎格之進(一関) | 一関方面のドライブ中、肉料理とご飯・汁物をそろえた昼食をとるなら。厳美渓へ向かう日の食事候補に。 | 4,800円 |
| 御料理 寺沢(北上) | 北上で日本料理の夕食を検討する際の候補。 | 66,220円 |
参考資料
- 厳美渓(一関市公式観光)
- 達谷窟毘沙門堂(平泉観光協会)
- 郭公だんご(一関市公式観光)
- かっこうだんご(岩手県観光協会)
- 郭公だんご・現地取材(日本テレビ「音のソノリティ」)
- 達谷窟毘沙門堂 縁起(達谷西光寺)
- 達谷窟と田村信仰(達谷西光寺)
背景資料の確認:2026年10月19日。本文は2024年の訪問記録です。現在の拝観・営業条件は各公式サイトをご確認ください。


















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