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2024年12月。年の終わりに、僕は南フランスの海辺にいた。ニースでは、穏やかな時間が流れていた。一年の区切りに訪れた街の記憶は、名所の名前よりも、海に沿って続く街並みと、そこで過ごした時間の輪郭として残っている。ニースから独立国モナコへ、岩山のエズへ、そしてシャガールが暮らしたサン=ポール=ド=ヴァンスへ。冬の海と石の村を巡りながら、旅は新しい年へ続いていった。
ニース、冬の海辺に流れる穏やかな時間
ニースでは、穏やかな時間が流れていた。海岸に沿って続く街並みと、ゆるく弧を描く海。その景色を思い返すと、名所をいくつ見たかよりも、この街にいる時間そのものが心に残っている。年末の南フランスの旅は、そんな海辺から始まった。
夏のリゾートという印象が強いニースだが、街の発展を支えたのは冬を過ごしに来る人々だった。18世紀後半から、温暖な冬を求める滞在者が集まり、海辺の散歩道や宿泊施設が整えられていった。世界遺産としての名称も『リヴィエラの冬季保養都市ニース』。冬に訪れたことは、この街の成り立ちに近い季節を歩くことでもあった。
マティスがニースを訪れたのも、1917年の冬だった。色と光の表現を探究していた彼は、その後この土地を制作の拠点にした。僕が感じた穏やかさと、画家が絵のために求めた光は、もちろん同じ感覚ではない。それでも、同じ土地が旅人には時間の流れを、画家には色の可能性を感じさせたのだと思うと、この海辺の見方が少し広がる。
モナコ、海岸沿いに現れる一つの国
ニースから訪れたモナコは、特異な場所だった。地中海沿いの旅の続きにありながら、ここには一つの国がある。岩の上の旧市街と宮殿、港を囲む街並み、モンテカルロのカジノ。その近さの中に、国家の歴史と華やかな観光地の姿が重なっている。
グリマルディ家とモナコの関係をたどると、1297年の要塞奪取に行き着く。フランソワ・グリマルディが修道士に扮して要塞へ入ったという物語が、年代記に伝えられている。華やかな街の歴史が、岩の上の防衛拠点と領有をめぐる争いにつながっているのは興味深い。
19世紀には、カジノや滞在施設を軸にした経済の転換が進んだ。1863年のソシエテ・デ・バン・ド・メールの設立は、その大きな節目となる。僕が感じた特異性を振り返ると、豪華さだけでなく、限られた土地で国を維持し、独自の姿を築いてきた歴史にも理由があるように思える。
エズ、岩山の村から地中海を見下ろす
モナコのあとに訪れたエズは、海辺の駅と、岩山の上にある村とで景色が大きく変わる場所だった。村に入ると、石の壁に挟まれた細い道と階段が続く。曲がり角の先に何があるのか、一度に見通せない。その小さな連なりを抜けたところで、地中海が広く現れた。
高い場所に集まる家々は、眺めのよい観光地になるために生まれたわけではない。エズは海岸を見渡す防衛拠点でもあり、1388年にはサヴォイアの支配下に入った。1706年、ルイ14世の軍によって城が破壊され、現在の頂上には異国情緒のある植物園が広がっている。石の村とサボテン、その下の海という組み合わせの奥に、国境と軍事の歴史がある。
この土地には哲学者ニーチェとのつながりもある。画家ではないが、南仏の風景と制作の関係を考えるうえで気になる人物だ。彼が海辺で過ごした時代を伝える『ニーチェの道』は、海岸と村を結ぶ。名前を知ると、この高低差のある風景が、人の思索にも場所を与えてきたことが分かる。
村の散策では植物園から海を眺め、そのあとChâteau Ezaのバー・ラウンジに立ち寄った。テーブルの向こうに海が広がる写真が残っている。村の歴史をたどる時間と、景色を眺める休憩が、一つの午後の中に並んだ。
サヴォイアという名前は、別の旅で歩いたトリノにもつながる。トリノの王宮や広場に重なる王家の歴史と、ここエズの防衛の歴史は、同じサヴォイア家の歩みの中にある。今の国境ではフランスとイタリアに分かれる街が、一つの家の歴史をたどるとつながって見える。海を見下ろす小さな村から、あの王宮の街へと、旅の記憶にも一本の線が生まれる。トリノ旅行記――回廊とカフェ、サヴォイア家の王宮を歩いた旅も、あわせて読んでほしい。
サン=ポール=ド=ヴァンス、石の村に重なるシャガールの世界
ニースからバスで向かったサン=ポール=ド=ヴァンスには、海辺とは違う南仏の姿があった。城壁に囲まれた村の中を、石畳の路地が細く続いている。階段、教会、画廊の入口。外側の道へ出ると、村の下に丘の景色が広がった。広い眺めと小さな路地が、歩く中で交互に現れる。
古い村を囲む城壁は、中世のまま残ったものと思いがちだが、現在の大きな輪郭をつくったのは16世紀の防備だ。フランソワ1世の命で1540年代に整えられ、砲撃に対応する堡塁を備えた。今日の散歩道の縁は、かつて国境に近い土地を守るための線だった。
シャガールは1966年から1985年まで、この村に暮らした。彼が選んだのは、制作と生活のための家『ラ・コリーヌ』。南仏の光だけでなく、マーグ夫妻をはじめとする人々とのつながりも、この土地での暮らしを支えた。彼の作品には村の輪郭や城壁、空に浮かぶ恋人たちが現れる。土地を写実的に再現することよりも、暮らした場所と愛の記憶を、一つの画面に重ねていたのだろう。
画家自身の心情をすべて知ることはできない。それでも、住み続けた村が繰り返し作品に現れることは、その土地が単なる背景ではなかったことを伝えている。実際の村では家も道も石の重さを持っている。その景色と、絵の中で人が空へ浮かぶ世界との隔たりを考えると、路地の見方も変わる。散策の途中にはLe Tilleulで食事をとった。
食事とバーを選ぶなら
今回利用した店から、魚介、コース料理、ニース料理、景色を楽しむバーを挙げたい。店によって過ごし方が違うので、散策の途中に食べるか、食事を夜の目的にするかで選ぶとよい。
| 店名・場所 | 特徴と今回の利用 | お会計額 |
|---|---|---|
| Le Café de Turinニース・ガリバルディ広場 | 牡蠣や魚介を楽しみたいときに。今回は牡蠣、タコのカルパッチョ、スープ、飲み物を注文した。 | €79.50約12,960円 |
| Le Panierニース・旧市街 | コースをゆっくり楽しむ夜に。今回は5皿のコースとワインなどを含む会計。 | €196.00約31,960円 |
| Da Acchiardoニース・38 Rue Droite | ニース料理を食事の入口に。今回はサラダ・ニソワーズ、魚料理、ワインなどを注文した。 | €98.00約15,980円 |
| Villa d’Esteニース・6 Rue Masséna | 街中でイタリア料理を選びたいときに。今回はパスタ2皿とソフトドリンク。 | €64.50約10,520円 |
| Château Eza / Bar Loungeエズ・村内 | 海を見下ろす場所で休憩したいときに。今回は白茶とビール。レストランのコース利用ではない。 | €21.00約3,420円 |
金額は旅行当時の一会計の合計で、1人分の料金ではない。領収書・会計票に基づく。現在のメニューや営業日は各店の案内を確認してください。
サン=ポール=ド=ヴァンスでは、村内のLe Tilleulで昼食をとった。村歩きの途中に食事の時間を取る候補として挙げておきたい。
今回泊まった宿
ニースでは、当時Sonderが運営していたYelo Mozartに3泊した。住所は9 Avenue Baquis。海辺とニース・ヴィル駅の間に拠点を置くことで、海を歩く日と、列車でモナコへ向かう日を同じ宿から始められた。現在、同じ住所の施設はCrisol Mozartとして案内されている。以下の予約リンクも現在の施設名へのリンクになる。
| 宿名 | 泊数 | 宿泊総額 | 参考円 |
|---|---|---|---|
| Yelo Mozart 当時Sonder運営/現Crisol Mozart |
3泊 | €524.35宿泊税€17.70を含む支払い確認済み額 | 約85,500円 |
参考資料・円換算について
日本円は1ユーロ=163.06円(ECB、2024年12月31日)の参考値で換算し、10円単位に丸めた概算。実際のカード請求額とは異なる。ECBの基準日資料。店舗・ホテルの公開情報確認日:2026年10月12日。
- https://whc.unesco.org/en/list/1635/documents/
- https://grandirenculture.nice.fr/uploads/fiches_mediation/4-fiche-matisse-decouverte.pdf
- https://www.sitesgrimaldimonaco.fr/fr/index
- https://media-trade.visitmonaco.com/pt/recursos-editoriais/ficheiros-tematicos/cultura/a-cultura-na-historia
- https://cnes.fr/geoimage/principaute-de-monaco-defi-territoire-entre-limite-frontaliere-densification-extensions-urbaines
- https://ville-eze.fr/histoire/
- https://provence-alpes-cotedazur.com/que-faire/itineraires-randonnee/chemin-de-nietzsche-eze-fr-4347195/
- https://www.chateaueza.com/
- https://www.saint-pauldevence.com/fiches/monuments/lenceinte-bastionnee-xvie-siecle/
- https://www.saint-pauldevence.com/wp-content/uploads/2017/09/communique-de-presse-sur-les-pas-de-marc-chagall.pdf
- https://www.restaurant-letilleul.com/





































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